「 」

   放課後の屋上で、私は彼女と空を見ていた。初夏の風に揺れる古びたフェンスは、ギシギシと鈍い音を立てる。彼女は何も言わずに、ただじっと私の目の前に立っていた。
 ふいに彼女は、私の方へと振り返った。夕暮れに染まる真っ白なはずのカッターシャツが変に眩しくて、私は思わず目を瞑った。 
「ねぇ、知ってた?」
 聞きなれたはずのその彼女の声に、私は目を開ける。痛々しい程に優しく笑うその姿が見ていられなくて、でもなんとなく目をそらしてはいけないようなそんな気がした。
「夕暮れの空にも流れ星があるんだよ」
 私に向かって叫ぶその姿は今にも消えてしまいそうなほど儚く、胸が苦しくなった。

 その瞬間、彼女は私の前から消えた。あるのは古びたフェンスと、フェンスの向こう側に残った薄汚れたローファーだけだった。