馬鹿正直と哀れな人の話。

秘密がバレて自分だけが困るのなら別にいい。例えば中学時代の黒歴史だとか、勝手にやらかしたエピソードだとか。もちろんバレたら嫌なこともあるけど、私は大概のことは大目に見ることができる。心が広いと言うより自分の事に対して怒れるほどの関心が私には無いのだ。だけど私以外の人が困るのなら話は別だ。都合が悪いことがあるのなら私は話すかどうかを考える。だから私は秘密にしようと思うし秘密がばれようとするのなら話をはぐらかす。自分のせいでまわりの人間関係がかわるのが嫌だ。人に迷惑をかけたくない。だけど私は嘘をつくのが下手らしい。そもそも嘘をつくのが苦手なのである。

 

大学生になって1年目の冬、隠すつもりもないからハッキリ言うが、わたしはガールズバーで働いたことがある。と言ってもたった一度きりのたった数時間だ。知り合いからバーの手伝いに来てくれないかと言われ行ったら騙されたのだ。確かに知り合いが経営しているバーの系列ではあったのだがそこがガールズバーなんて知らなかった。とりあえず外に立たされ、ケバケバしい年下の女の子に手を引かれて道行くサラリーマンに声をかけさせられた。私は何もしたくなくて一言もしゃべらずに立っていただけなのだけれど。

キャッチができない私はお客さんが中に入ると接客をさせられた。席にはサラリーマンのおじさんが複数人いた。とりあえず愛想よくしないといけない。一応店に迷惑をかける。そう思ったからとりあえずひたすら相槌を打って笑った。周りの女の子たちはほとんどが16歳くらいだった。そんな少女達が夜の街で何をしているんだ。普通に法律違反だ。お客さんに高いドリンクを強引にせがんで買わせては、一気に飲んでいた。おかわりください!と言ってはまた同じことを繰り返していた。お酒とは名ばかりのただの水を。普通に詐欺だ。捕まればいいのに。私はそんなことしなかった。厚かましいと思われたくもないしお客さんに申し訳なかった。好意で貰ったドリンクも申し訳ないと思いながら自分のペースでゆっくり飲んだ。あとで同じカウンターにいた年下の女の子からもっと早く飲んで?と怒られた。

正直、お客さんからは私が一番人気があった。きっと周りと違ってギャルでもなければビッチのような雰囲気も持っていない、いわば清楚キャラだったからだと思う。他の子にバレないようにこっそり呼び出されては次々と連絡先をきかれた。店に座ってる大半のサラリーマンは私のことを気に入ってくれたみたいだった。1人のお客さんに

「今何歳なの?」

と聞かれた。私は嘘がつけなくて20と答えるべきか18と答えるべきか迷った。間があくと、

「本当は18くらい?」

と的を得た問をされ、私は黙ってうなづいた。だって本当のことなのである。私は当時たったの18歳だったのだ。サラリーマンたちが帰ると、連絡先をきいてきたおじさん達から次々とメッセージがきていた。

「今度ご飯に行こう?」

ご飯を口実に女の子と遊びたいだけだろう。あわよくばセックスを狙っているだけだろう。ほかの女の子とは違って私は処女の雰囲気が出ていたのだろう。しかも年齢を誤魔化すことも出来ない流されやすい女。だから目をつけられたのだろう。確かに処女であることに間違いはなかったのだけれど、普通に考えて好きでもない人間に軽々しく自分の大事なものを渡す訳が無い。そんな馬鹿には死んでもなりたくない。私はすぐに知らない大人達の連絡先を削除してブロックした。さようなら、誰か知らない大人達。ついでに手伝いを頼んで騙してきた知り合いもブロックした。

 

掘り返してみると意外とやばい話はけっこう持ってる。だけどその都度誰かに話している。一人で抱え込めるほど強い人間じゃなかった。だから馬鹿話のように自分の過去を話すし闇の深い話だってする。それくらいふっ切れたくらいが私にはちょうどいいのかもしれない。代わりに誰にも言わないでと言わた人の話はしないって決めてる。だってそれは私の話じゃないから。秘密の話は秘密にする。その辺はちゃんとするって決めてる。多分、私は自分のやばい話を秘密の話だと思っていないんだと思う。無理に飾ってもしょうがないし、これからも闇の深い話をたんたんと私は話すのだろうなと思う。