遠くへいってしまうのだ。
「どこか遠くへ行ってしまいそう」
君は確かにそう言った。きっとここではないどこかを見ていることを見透かされたのだろう。いつか来る終りを考えては今という現実から目を背けたくなったのだ。
真っ白な腕が引き止める。
「お願い、どこにも行かないで」
その言葉が重くて、振り解けるはずの華奢な腕なのに力ずくに振り解くことすら出来なくて、ただ立ち尽くすしかなかったのだ。猫っ毛のミディアムヘアから香るシャンプーが甘ったるくて、変に泣けて、僕は必死に嗚咽を噛み殺した。今が悲しくて、未来はもっと悲しくて、泣くことしか出来なかった。