制服を着ていたい子どもの話。

高校を卒業して、今年で3年目を迎えようとしている。

久しぶりに地元へと帰ってくると母校の制服を着た少女達がバスへと乗り込む姿を見かけた。楽しそうに笑う少女達を尻目に、私はどうしようもないほどやるせない気持ちになった。羨ましくて妬ましくて、羨ましい。私も前までは、同じように真っ白なブラウスと紺色のジャンバースカートに身を包んでいた。指定のソックスと通学カバン。真っ黒なお下げ髪を揺らしながら真新しい校舎へと向かっていた。向かっていたはずなのに。

 

「髪を染めたくない」

高校を卒業した時、母に言った。もちろん反対された。母から、

「もう大人になるのにいつまでも黒髪だと変」

といわれた。

嫌々ながら連れていかれた美容院は鼻を刺すような洗髪剤のキツイ匂いがした。真っ黒な長い髪には何かよくわからない色を塗りたくられ、パーマをあてられた。綺麗に切りそろえたパッツンの前髪もくるんと巻かれ、お気に入りだった私の髪は、名前も知らない初対面のお兄さんの手によって知らないものへと上書き保存された。出来たよというその声を聞いても、私は自分の姿を見るのが怖くて顔をあげられなかった。

意を決して鏡の中を覗く。ゆっくりと。まるで怖いものでも見るように。

そこには栗色の、ふわふわの巻髪の私が映っていた。

「似合わない」

と、そう思った。

きっと似合ってないというよりも違和感があっただけなんだろうと今でこそ思う。けれど、あの頃の私はそんな客観的な考え方をできるほど大人ではなかったのだ。高校を卒業したての、たかが18歳だったのだから。

 

家に帰ると母はこちらを見るなり

「似合うねやっぱりこっちの方がいい」

と大袈裟に新しい姿の私を褒めた。

わざとらしく聞こえて、悲しくなった。虚しかった。そして、過去の私ではいけなかったのかと、そうも思った。私が好きだった黒髪は、母にとってはそんなにも幼く忌々しかったのだろうか。

 

私は、20歳になった。事実だけ。お酒を飲めるような歳になった。なってしまったのだ。大人として扱われてしまうのだ。望んでもないのに。

あの日に戻りたいと心底思う。未練と共に生きる私は今日も1人で、ネットで買ったどこの学校のものでもないセーラー服に袖を通す。プリーツスカートをわざと揺らす。鏡を見ると明るい髪をした制服が似合わない自分がいる。そして、自分の体をぎゅっと抱きしめる。どうしようもないほどに悲しくなって涙を流す。声を出して泣く。泣いてはまた痛いほどに自分の腕を握る。そして数分たつと、その制服を脱いでハンガーへかけ直す。馬鹿馬鹿しいと頭では思いながら、私は何度も同じことを繰り返す。過去に縋り付くように。何かを取り戻そうとするように。必死に、必死に。